中古マンションの購入を検討する場合、「なるべく安く買いたい」というのは誰しも考えることでしょう。ただし、買主の意思とは裏腹に「なるべく高く売りたい」という売主側の希望が反対には存在します。
本来相反するはずの売主・買主それぞれの希望を上手くまとめ、中立的な立場で交渉を行うのが不動産仲介エージェントです。
中古マンションの売買取引を、なるべく値引きして買いたい場合のコツと注意点を確認していきましょう。
中古マンションの売り出し価格は「スタート価格」
個人が所有する中古マンションを売却したい場合、まずはどこかの不動産会社へ「自宅はいくらで売れるのか?」を相談に行くのが一般的です。
不動産会社が売却の相談を受ける際、宅地建物取引業法第34条の第2項には、「宅地建物取引業者は、前項第2号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。」という旨が定められています。
これは、不動産仲介会社に対し、不動産知識の少ない個人へプロとして責任をもった金額を提示するようにという思想が反映されている法令になります。
また、通常は居住用の中古マンションを査定する場合には「取引事例比較法」という方法を用いて金額を算出することが多く、近隣や周辺エリア内で査定する対象の物件に類似する過去の物件の取引事例を多く収集し、その中でもより親和性の高い事例物件と対象物件を細かく比較(立地、開口部の向き、築年数、駅距離、管理状況等)し、成約予想価格を提示します。
この成約予想価格を参考に、売主は販売スタート価格を決定していくという流れになります。
ここで注意が必要なのは、不動産会社としては成約予想価格を提示していても、販売活動を行う際の価格については売主にすべての権限があることです。
そのため、不動産会社の提示した成約予想価格が仮に【5,000万円】だったとしても、価格の決定権は売主にあるため、150%増しの【7,500万円】で売り出しを開始したとしても何らの罰則も問題もありません。
そしてこれはあくまで「スタート価格」であり、買主がその金額以上で購入希望を出さなければならない、という訳でもありません。
値引きできるかを見定めるポイントは「売り出し期間」
値引きに応じてくれやすい物件か否かを見極めるポイントの一つに、「売り出し期間の長さ」が挙げられます。
これは、販売期間が長くなるほど不動産市場に物件の情報が広く浸透し、多くの購入検討者たちが【物件へ問い合わせ→内覧→購入検討→申込】という流れを経てもなお契約に至っていない「売れ残っている物件」という見方ができます。
そのような状態になると、売主にも「少し高いのかもしれない」という心理が働きやすくなるため、多少の値引き交渉であれば、売主がそのまま受け入れて成約するというケースが多くなります。
では、およそどのくらいの期間がその目安になるかというと、媒介契約の期限である「3ヶ月」が一つの基準になります。(※媒介契約:売主が所有する物件の売却活動を不動産会社に依頼する契約のこと。)
この3ケ月を超えているか否かは内覧時に不動産仲介のエージェントへ確認しても良いですが、相場感を養う意味でも自身でsuumoやathomeなどのポータルサイトを定期的に確認して、エリア内の物件状況を把握しておくとなお良いです。
交渉前に準備しておくこと
交渉の前段階で買主が準備できることは、交渉がまとまった際にすぐに売買契約を締結できる準備をしておくことがとても重要です。
売買契約時には、手付金(概ね物件価格の5%~10%の現金)を支払う必要があります。定期預金や株などの有価証券で資産を管理している場合には、現金化に数日~1週間程度掛かることもあるため、十分注意が必要です。
また、購入申込をした時点では売主に対して購入の意思を表示しただけなので、売主に対して、自分が本当に買えるか否かの証明がありません。購入申込と同時あるいは、出来れば購入検討段階で住宅ローンの事前審査を受けて「審査承認」の通知を出しておくのが理想的です。
一刻を争うような人気物件が出てきた場合、内覧の前に事前審査を通すライバルも現れますので、不動産仲介エージェントに相談しつつ、事前に準備可能なことは早めに済ませておきましょう。
中古マンションの場合、新築マンションとは異なり物件を購入できるのは1組だけなので、申込が同日に重なることがよくあります。その場合、購入価格や引渡希望日、手付金の額、現金購入か融資利用か等の細かな部分でどちらに売るべきかという判断を売主が行います。
売れ残り物件とはいっても、価格変更や値引き交渉などで適正価格で買えるのであればそれは優良物件に変わる可能性もありますので、常に見えないライバルが存在していることを念頭に置きながら、出来る準備は進めておくことを忘れてはいけません。
交渉の成功例と失敗例
実務で不動産の営業を経験していくと、様々な売主・買主に遭遇します。
私が印象に残っている値引き交渉の成功例は、物件の内覧中にお互い全く面識のなかった売主と買主が、内覧中に壁に掛けてあった「絵画」の話から盛り上がり、お互いの仕事やプライベートの話、なぜ売るのか、なぜ家を探しているのか等、色んな話をしてその場は解散しました。解散後、同日中に売主側から「あの人になら2割引いてもいいから、買ってもらえないか?」という連絡を受けました。
よくよく聞くと内覧中におしゃべりが盛り上がった際に、この人なら譲った後も我が家を大切にして住んでくれそうな気がした。という理由からでした。買主も内覧後、購入したい意志は強かった様で、お互いの希望通りの金額で契約となりました。
非常に稀なケースではありますが、内覧中の買主の態度や言動も売主はよく見ています。購入するのは「不動産」ですが、売る判断を行っているのは、売主であることは忘れてはいけません。
一方で交渉失敗の印象的な例は、一度お互いが了承した交渉に後日、追加で値引き交渉を希望し、さらにエアコン・家具などを残置して欲しい旨の追加交渉を希望されたケースです。
売主も買主どちらの立場であっても、一度諸条件を調整し終わった後に、後出しで追加条件が出てくるのはとても気分が悪いものです。その事例では、最終的に売主が「当初の条件でもあの人には売りたくない」と仰り、交渉は決裂してしまいました。
不動産仲介エージェントは、交渉時は細心の注意を払い計画を立て、買主に代わって難しい交渉に挑みます。そのため買主は、自分の希望する条件と交渉をお願いしたい事項については、購入申込の前に整理して全て伝えておくことが非常に大切です。
また、自分の希望を気兼ねなく伝えられるような信頼できるエージェントと、日頃から関係を構築しておくことも値引きを成功させる上での大切な過程といえるでしょう。
執筆/吉川遼(Ryo Yoshikawa)
三井不動産リアルティにてマンション・土地・戸建等幅広く売買仲介営業を約7年経験。2018年度在籍店舗の件数達成率145%など、多くの売買実績に携わった