様々なビルの中でもひときわ目立っている、でこぼこのビル。
実はこの奇妙なビル、アーティストや廃墟マニア、国内外の建築好きから熱狂的な人気を集める名作建築ということをご存知でしょうか。
今回はそんな中銀カプセルタワービルの歴史や意義、人気な理由をまとめてみました。
中銀カプセルタワーとは、建築家・黒川紀章が1972年に建てたメタボリズム建築の代表作です。
まずは黒川紀章について、メタボリズム建築についてをおさらいします。
黒川紀章とは
国立新美術館やクアラルンプール国際空港も設計した建築家。2007年には東京都知事選に出馬するなど、建築のみならず政治においても積極的に活動した政治活動家でもあります。
1960年弱冠26才で建築の理論運動メタボリズムを結成、衝撃的に世界にデビュー。
その後、機械の時代から生命の時代への変革を一貫して主張してきた。共生、新陳代謝(メタボリズム)、情報、循環(リサイクル)、中間領域、フラクタル(非線形)、生態系(エコロジー)等、45年間提言してきたコンセプトはいずれも「生命の原理」という点で共通している。その活動は、世界20ヶ国におよび、世界各地で完成した作品は高い評価を得ている。
この業績にたいして、建築界のノーベル賞ともいわれているフランス建築アカデミーのゴールドメダルを受賞している。
引用:KUROKAWA KISYO architect&associates/「黒川紀章 略歴」https://www.kisho.co.jp/page/8.html
経歴からも、革新的な建築家であることが分かります。
メタボリズム建築とは
1960年代に日本発の前衛的で実験的な建築様式です。丹下健三に影響を受け、黒川紀章や菊竹清訓ら日本の若手建築家・都市計画家グループが開始しました。名前は、新陳代謝(metabolism)を指し、社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を提案しました。
でも実際どのように建物が「新陳代謝」するのでしょう?
細胞のようなカプセルで新陳代謝する建築、中銀カプセルタワー
実はこのカプセルは一つ一つが取り外し可能なんです。
25年ごとに交換することで、建築物がまさに新陳代謝を行い環境に適応していくモデルが想像されていました。
引っ越しはカプセルごとトラックで移動させる、といった前衛的な手段が考えられていたようです。週末はカプセルごと移動してピクニックもできるといった柔軟なモビリティが当時から考えられていました。
カプセルを使った初めてのプロジェクトであり、限られた時間の中で工事が行われました。工事中に設計が変わることも。当時建築に携わった関係者は、「この建物が建てられたのは奇跡」とも漏らしています。
<外観>
外観を見るだけでは分かりにくいですがA棟が13階建て、B棟が11階建てのツインタワーになっています。
1フロアには16個のカプセルが設置されています。実はこのカプセル、積み重なっているように見えますが建物に引っ掛けてボルト4本で宙に浮かせているとのこと。風が強く吹くとカプセルごと振動するなんてことも。
また、冷暖房の配管はむき出しで晒されており、まさに有機的な姿です。
常識が裏切られます。
<内装>
もともとはビジネスマン向けに設計されたマンションのため、キッチンはありません。カプセルは10平米。ベッドを置いたら実質使える面積は4畳半とかなり狭めです。
ダイヤル式の電話とラジオ、音響再生機器、ユニットバス、丸い窓がすべての部屋についています。
老朽化が進む実情
突貫工事で進められた実験的な建物ということもあり、実際は様々な問題が発生しています。25年ごとに交換されるはずでしたが、1972年から現在までカプセルの交換はなされていません。カプセル同士の隙間が狭く交換がしづらいといった構造的な問題もあり、老朽化が進んでしまっています。窓が開かない、アスベストが使用されている、お湯が使えない、雨漏りがするなどなかなか不便。
ビル正面の看板は、半濁点と濁点が取れてしまい「中銀カフセルタワーヒル」に。ビルの深刻な老朽化が現れています。
ある一室には植物を誰かが植えたわけではないのに草が茂っているそうです。雨漏りでできたくぼみに鳥が植物の種を持ってきて繁殖したとも。
老朽化が進んだ結果逆に新たな生命が育まれています・・・
しかし、老朽化と限りなく低い利便性にもかかわらず、カプセルの需要はいっそう増しているそう。人気の理由を探ってみました。
不便なのに人気な3つの理由
✔︎個性的な物件で自由にリノベができる
丸窓のついた6畳をキャンパスとして自由に個性を出すことができます。丸窓を使って和モダンな雰囲気に仕立てたり、宇宙船のようにしたり。中には丸窓をソファーにしてしまう人も。
✔︎バラエティーに富む入居者たちのつながりがある
不便なビルには様々な個性豊かな住民が集っています。
・音楽、映像、デザイナーなどクリエイティブな職業の人
・廃墟マニア
・東京観光も兼ね週末に別荘として利用する他県の方
・マグロの漁を遠隔でコントロールしている人
・ミニマリスト
このようにバックグラウンドも趣味もばらばらな住民ですが、共通するのはビルへの熱い思い。住人同士の飲み会も開催されているようで、普段なら関わり合うことのないような趣味もバックグラウンドもバラバラな人々がコミュニケーションを楽しむ場となっています。人との繋がりは何物にも代えがたいものです。
✔︎旅行気分で住める
中銀カプセルタワーにマンスリーで住める「マンスリーカプセル」プロジェクトが人気を博しています。
最近は一つの住宅に定住するスタイルではなく、体験価値を求め「旅するように住む」といったライフスタイルが注目を集めています。アトラクションのように不便さも楽しみつつレトロフューチャーなカプセルに住まうという体験はここでしかできないものです。
まとめ
不便ささえも体験価値にしてしまう中銀カプセルタワービル。住宅としての機能性を度外視して「アート」として住むことを楽しめるといった魅力があります。
このように国内外から熱狂的な人気を誇る中銀カプセルタワーですが、老朽化が進み取り壊しの危機に瀕しています。カプセルを交換するには1カプセルにつき1000万以上の高額な費用がかかるそう。しかし現在、他のメタボリズム建築とともに世界遺産への登録を目指しているそうです。今後の情報も要チェックです。