マンションデベロッパーが、自社のブランド名を冠してつくる“ブランドマンション”。中古になっても根強い人気をもつことも多く、その品質やブランドならではの価値に注目が集まっています。
そんな“ブランドマンション”の真価を知るべく、TERASSでは「ブランド・企業の歴史」や「具体的なものづくり」にいたるまで、マンションデベロッパーのブランド担当の方にたっぷりとお話を伺いました。
話し手
三菱地所レジデンス ブランド・CL推進部
三浦さん(左) 松田さん(中央)
聞き手
TERASS 江口亮介(右)
100年受け継いだこだわりが生んだ「ザ・パークハウス」
Q.「ザ・パークハウス」のブランドメッセージ「一生ものに、住む。」の意味について教えてください。
A.三菱地所レジデンス 松田さん
“一生もの”と言っていただけるほど良質なものをお届けする、という意味を込めています。一生、というとその家にずっと住むという風に聞こえてしまうかもしれませんが、そうではありません。どんな時でも安心して上質な暮らしが楽しめるような、お客様にとってかけがえのないものをお届けできるように、それがブランドの提供価値になるように、という想いをもって「ザ・パークハウス」ブランドのマンションをつくっています。
Q.統合前の三菱地所さんのブランド「パークハウス」の名残もありますね。
A.三菱地所レジデンス 松田さん
そうですね。2011年に、三菱地所の住宅事業と三菱地所リアルエステートサービス、藤和不動産 3社の統合をもって三菱地所レジデンスとなった際に生まれたブランドが「ザ・パークハウス」なのですが、当時三菱地所は「パークハウス」というブランドを持っていました。
ブランド名について議論した際、統合を経て我々が受け継ぐものとはなんだろう?と考えた結果、パークハウスのDNAを受け継いで新しい新会社のブランドに昇華させていこう、という想いで統一して「ザ・パークハウス」として新たなスタートを切りました。
Q.かけがえのないほどの価値ある暮らしを届けよう、ということがブランドの根幹なのですね。そういった姿勢は住まいのどういった点に活かされているのでしょうか?
例えば、「5つのアイズ」というモノづくりのこだわりがあげられます。「ザ・パークハウス」が“一生もの”であるために、私たちはマンションの基本計画の段階からお客様の入居後までを見据えて、様々な視点から住まいの品質を追求しています。なぜなら、頑丈で安全な建物であるだけでは“一生もの”とは言えない、と考えるからです。この住まいの品質を創造する原動力となっているのが、<5つのアイズ>です。この考えに対して、2012年にグッドデザイン賞もいただきました。
2000年頃に建築基準法違反などの問題が取り沙汰され、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づいて住宅の品質を客観的に評価する「住宅性能評価」制度が始まりましたが、それより前から「チェックアイズ」という自社独自の評価基準で自社物件をチェックし、その結果を公表していました。
住宅性能評価制度での評価と、自社独自の評価を記載しているのですが、自社の基準のページの方が多くなってしまっていました。そこまで具体的にものづくりを公開して、お約束してものづくりをさせていただく。という部分が、「ザ・パークハウス」の一つの大きな提供価値と考えています。
現在はその「チェックアイズ」に加え、環境に配慮した経済的で快適な暮らしへのこだわりや自分だけの住空間をつくる楽しみへのこだわり、安心・安全へのこだわりなどを加え「5つのアイズ」として住まいの品質を創造する原動力としています。
また、検討している段階で各住戸の燃費を見える化したり(マンション家計簿)と、住まい選びの新たな基準を提案しています。
明治から続く“こだわりすぎ”の歴史
Q.確かに、施工の管理や防災訓練など、目に見えにくいけれど家という資産に欠かせない部分を非常に大事にされている印象があります。
A.三菱地所レジデンス 三浦さん
そうですね。意匠や間取り、設備などももちろん上質な住まいをつくるためには大切な要素ですが、法律以上に厳しい基準を自ら設けるものづくりの品質への姿勢は、明治時代に丸の内というビジネス街を作った時から続いている三菱地所のこだわりでもあるんです。
Q.明治時代から!さすがは三菱さん…
A.三菱地所レジデンス 三浦さん
お客様に届けるものをきちっと作らないといけない、という意識は当時からものすごく高かったようです。三菱地所は100年以上建物を作ってきていますが、一つ語り継がれているエピソードがありまして。
丸ノ内ビルヂングの建て替え工事の着手した際に、旧丸ノ内ビルヂングの地下に5443本の松杭が出てきたのです。
丸ビル建築工事は大正9年11月からですが、建築基準法が始まったのは昭和25年。建物をどう作ると安全、という基準はなく、ビルを建てる時にどう建てたらいいのかというノウハウも日本にはあまりなかった。
そんな時代から、この松杭は地下1階下から安定地盤の東京れき層にまで達しており、ビル基礎を安定させる役割を果たしていました。そういう部分が、三菱地所のDNAといいますか、一貫しているこだわりと言えると思います。
Q.社内でも、そういった品質についての会話は多いのでしょうか?
A.三菱地所レジデンス 松田さん
そうですね。大きな組織ではありますが、ものづくりの集団としては異質なところもあるかもしれません。
まず、組織自体が一般的なデベロッパーと異なります。三菱地所は三菱地所設計という会社を内包していて、多数の建築士を抱えていました。そういった技術に関しては外部の会社と連携をとり、内部に技術者を置かない会社もありますが、それが社内にたくさんいるため、建築士と同じ目線でものづくりをします。
三菱地所レジデンスとなった現在も、クオリティマネジメント部門があります。もちろんゼネコンさんに協力を得たりもしますが、社内に技術者がおり、同じ目線で議論ができます。
Q.職人気質な真面目さは、そういう組織構成からも来ていたのですね。
A.三菱地所レジデンス 松田さん
全ての物件で手を抜かずにこだわって作るのは当たり前。つくることや、自分たちのつくったものに何かが起きた時、どう解決するかにも真摯に向き合っています。
マンションを売る、ではなく住んだあとの暮らしを考えてものをつくっている集団であると自信を持って言えるのは、そういう積み重ねがあるからですし、一つ一つがブランドの価値につながると自覚してものづくりをしています。
Q.三菱地所レジデンスさんの素敵なところは、そうした“直接的な売りにならないかもしれないが本質的な部分”にものすごく力を注いでいらっしゃるところですよね。
A.三菱地所レジデンス 三浦さん
真面目なんですよね(笑)
防災訓練も、弊社が力を入れているものの一つです。
シナリオをしっかり作って、何かあった時にすぐ動けるようにしている。地所グループ全体がそうなんです。この訓練も100年くらいの歴史があって、1923年の関東大震災の際には、旧丸ビルの周辺で臨時の診療所を作ったり炊き出しをしたそうです。
東日本大震災では、三菱地所グループは丸ノ内のビルの地階を解放して、帰宅困難者がビルの地階に泊まれるようにしました。普段の訓練もあって、周りのテナントの方も炊き出しをしてくださいました。
こういった対応は、訓練しないとできないんです。普段から、どうなったら誰がどう判断する、ということを練習しておかないとできない。それはマンションも同じです。
社員有志の防災クラブもあって、自社のマンションでより実践的な防災訓練の実施サポートを行っています。災害から救助が来るまでマンションで耐え忍ぶための訓練をしています。特に都内は人口が多く、避難所には入れないことが多いでしょう。そこで、仮設トイレの作り方や凝固剤の使い方などを災害時に実際に行動に移せることを目指して伝えて回っています。
防災は“我がごと化”することも大切ですから、防災ツール「そなえるカルタ」や子どもと大人が自分の家族を想定して考える「そなえるドリル」を使って伝えています。
そういう部分を含めてしっかりやる、というのが我々のものづくりなのです。
ザ・パークハウスの防災プログラム(「そなえるドリル」「そなえるカルタ」のダウンロード)
https://www.mecsumai.com/bousai/
Q.そこまで徹底されているとは知りませんでした!
A.三菱地所レジデンス 三浦さん
そうですよね…。ただ、黙っていてもしっかり作っているから売れるという時代ではなくなってきてもいますよね。そこで、我々のものづくりをお客様に適切に公開していくということを始めるようになりました。その代表例が、先ほどの「チェックアイズ」です。
技術者が多いので、かつては技術者がしっかりやっていればいいんだ、という考え方が強かったようです。旧丸ビルにどれだけの松の木を打っているかなんて、入居いただくテナントの方には言わなかったわけですよね。安心して住んでもらうことが大前提なので。
ただ、それではいけないのではないか、と考えるようになりました。
安心安全なすまいを作るだけでなく、それを見える形でお届けする。我々のこだわりはそういう風に形を変えて引き継がれてきていています。
Q.設計、デザインのこだわりを教えてください!
A.三菱地所レジデンス 松田さん
例えば「ザ・パークハウス 五番町」では、駅前の建物が密集する立地ながらもランドスケープやデザインの工夫により「余白」を生み出し、奥行きのある邸宅を創り出しています。
都心の利便性を享受できるような立地は、商業・業務ビルが立ち並ぶエリアでもあることが多いです。そういったエリアに「余白」という価値を見出し、実現した取り組みに対し、2019年のグッドデザイン賞をいただきました。
また意匠については、「ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵」で、マンション特有のバルコニーや隔て板を軒庇や柱型に見立てることで環境・風土から導かれた日本建築のエッセンスを引き継ぎ、これまでにない日本の空気を作ったマンションとして評価をいただきました。こちらも2015年のグッドデザイン賞をいただいています。
16年連続でグッドデザイン賞を受賞しており、デザインや取り組みなど様々な観点で評価をいただいてきました。例にあげた物件はその一例で、その土地や地域の特色をよくリサーチし、その立地が引き立つデザインを行うということは「ザ・パークハウス」の物件に共通した姿勢です。
Q.地域の生物多様性までリサーチし、野鳥のメジロや蝶の通り道などを作っていらっしゃると聞いたことがあるのですが…
A.三菱地所レジデンス 松田さん
そうですね。同じ地域に複数棟建てられる場合は、約150mしか飛べないメジロのために、マンションという“点”が地域の緑と繋がるようにしています。
また、地域の樹木や在来種を多く入れたり、生物多様性の保全に配慮したマンションを開発しています。そういう本当に細かいところも考えながらつくっていますね。
変えてはならない部分と、時代に合わせて変える部分
Q.3社の統合と、「ザ・パークハウス」ブランドの誕生から約8年。消費者の生活や価値観も大きく変化していますね。
A.三菱地所レジデンス 松田さん
そうですね。最近ですと、物流の変化に応じた工夫が増えています。
例えば郵便受けや宅配ロッカーの周辺に、荷ほどきのスペースを作った物件もありました。
宅配ロッカーにきた荷物って、どうしていますか?家に帰ってダンボールを開けて、ゴミとしてまたゴミ置場に持っていく、ということをなさっているのではないでしょうか。宅配ボックスの周辺に荷ほどきのスペースがあれば、その場で中身を取り出して、ダンボールはゴミ置き場に置いて、そのまま家に帰れますよね。
-荷ほどきスペース「KATTE」の動画
また、「ザ・パークハウス 文京千石一丁目」では、戸別の宅配ロッカーを住戸の前につけています。わざわざとりにいく必要がないですし、水や重いものなども、家の前まで上げる必要がなくなります(指定業者のみ)。こちらは、2018年にグッドデザイン賞をいただきました。
また社内の変化としましては、今年の初めに移転をした新オフィスではオフィスがフリーアドレス制になりました。かつては事業部ごとに分かれていましたが、その垣根がなくなりましたね。社内で色々フレックスタイムも導入して働き方が変わり、より多様なバックグラウンドをもつ社員がものづくりに関われるような環境になりました。
オフィスのど真ん中に大きなキッチンもありまして、そこで実際に設備を使ってみたり料理をしながら、よりリアルに暮らしを意識したものづくりができるようになりました。
Q.ここまでたくさん「ザ・パークハウス」について伺ってきましたが、最後に共通して疑問に感じた部分をお聞きしたいです。ここまで「販売」というよりも「入居後の暮らし」に全力を注げる理由は、何でしょうか?
A.三菱地所レジデンス 松田さん
入居後、お客様に直接関わる“管理”も含めて一貫で行なっている、という体制もあると思います。
また、世の中に役に立つマンションはたくさんある中で、我々の中でお客様にどういう意味を持っていただくのか、というのは各物件よく考えてつくっています。そうした積み重ねの答えが、冒頭から繰り返し出ている品質へのこだわりであり、三菱地所時代から流れるこの組織のDNAなのかな、と思います。